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東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)125号 判決

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の登録請求の範囲および本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決に原告主張のような違法な点があるかどうか順次判断を加える。

1、本件審決理由の要点1について

本件審決の認定するように、反射板上の硝子の微小球につき、その入射光位置と反射光位置との間に、僅かではあるが若干のずれがあることは否定できない。したがつて、本件明細書のうち審決の指摘する記載すなわち硝子球の反射光線の方向は、その入射光線の方向と同一であり、反射板(イ)によつてその入射光線を正確に入射方向に反射するという記載は、それが光線一本づつについていうものとすれば、その表現が不正確だということになる。しかしながら、成立に争いのない甲第八号証(本件考案の明細書)によれば、「考案の詳細な説明」の項の冒頭に「本考案は硝子球の反射光線の方向が、入射光線の方向と全く逆の方向である事即ち所謂、再帰反射特性ある事を利用し」との記載があることが明らかである。この記載からみると、審決の指摘している箇所は、硝子球の再帰反射特性を説明しているものと認められる。ところで、硝子球が再帰反射特性を示し、そのため、入射光束を入射方向と逆の方向に反射させるものであることは、周知の事柄であつて、このことは被告も認めるところである。してみれば、審決指摘の箇所における光線は、光線一本づつを意味するのではなくて、硝子球に入射しあるいは反射される光線全体、すなわち光束を意味するものと理解されるのであつて、この程度のことは当業者ならば容易に理解できると思われる。

2、本件審決理由の要点2について

本願考案の明細書に「反射板(イ)と反射鏡(3)の焦点に」との記載があるが、焦点とは光学系(鏡またはレンズの組合わせ)において平行な入射光線が集中する点であることは、周知の事柄であつて、反射鏡には焦点が存在するけれども、反射板がこの意味における焦点を有しないことは明らかである。

原告は反射板の焦点とは、反射鏡の焦点を通過した光線が反射板によつて反射され再び反射鏡の焦点を通過するその点を意味するもので、この場合「物事の集中する所」という趣旨で焦点という言葉を使用したと主張する。しかしながら、一つの「焦点」という言葉を二様の意味に使用することは、用語の通常の使い方ではなく、読む者を惑わせるものであつて、反射板の焦点の意味を原告の主張するような趣旨に理解することは困難である。したがつて、反射板の焦点とはその趣旨が不明であるというほかはないが、前記甲第八号証によれば、「反射板(イ)と反射鏡(3)との焦点に」という語句は、第二実施例における点光源(4)を配置する場所を説明したものである(別紙図面第二図参照)。してみると、反射板の焦点の意味を原告の主張するとおりのものとして理解するときは、反射板によつて反射する光線が集中するところは光源であるから、反射板の焦点に点光源を配置するという記載は、点火源のあるところへ点光源を配置するということになつて、無意味な説明であることになる。それはとも角、成立に争いのない甲第二号証の一(実用新案登録願)によれば、第二実施例の図面(別紙図面第二図)においては、点光源(4)は反射鏡の焦点におかれていることが認められる。それ故、「反射板(イ)と反射鏡(3)との焦点に」とあるうち「反射板(イ)と」の部分は趣旨不明のものとしてないし無意味なものとして除外すれば、点光源(4)の配置は直ちに明らかになるのであつて、当業者ならば、この程度の理解は容易に得られるであろう。したがつて、実施例の説明におけるこの程度の欠点は、実用新案法第五条第三項に違反するとあえていうほどのことではあるまい。

3、本件審決理由の要点3について

審決は第一実施例についての説明のうち第一図(別紙図面第一図)図示のものにおいて光線(5)は反射板(イ)に遮蔽されて外部に取出せずそれ以外の部分の光束は増加しないので全体として利用光量が減少するだけであるから、反射板にさえぎられる光束以上の光束が余分に利用できるように反射板を設置する位置を特定する必要があると指摘する。これに対し、原告は反射鏡と反射板との間では光束が増加し、光束が増加すれば輝度が増加するのであつて、この輝度は反射板と反射鏡との間において光線の方向と直角をなす方向から見るものであり、本件考案はこの輝度の増加を利用するものであると主張する。

前記甲第二号証の一、同第八号証によれば、本件考案の第一実施例においては、反射板が光源から反射鏡と反射の方向に向う光線を再び光源方向に反射しこれを反射鏡に向わせて有効化していること、その反面、反射鏡から照射される光線が反射板によつてさえぎられ、無効化する部分のあることが認められる。したがつて、反射鏡、光源、反射板の三者を配置する位置如何によつては反射鏡から照射される光束が反射板のない場合よりもかえつて減少することもあり得ることは明らかである。

原告はその場合でも反射板と反射鏡との間では光束が増加し、輝度が増加するというけれども、反射板と反射鏡との間の光束数がいかに増大しても、その光束を外部に取出せなければ無価値である。反射板と反射鏡との間を往復する光束は反射板と反射鏡間における光線の方向と直角をなす方向には放射されないから、輝度は零である。すなわち、この方向から見た場合、目に入射する光線はないのであるから、かがやきはなく、輝度は感じない。それ故、かような輝度の利用は不可能であり、原告の主張は採用するわけにはいかない。

しかしながら、前記甲第二号証の一によれば、本願考案の第二実施例第二図(別紙図面第二図)のとおり反射板が設置された場合、光源から直接反射板に向う光線はすべて反射板の反射によつて反射鏡に入射し、その光量は光源から直接反射鏡に入射する光線と等量であるから、反射板がない場合と比較すれば反射鏡に入射する光線は文字通り倍加すること、反射板の大きさは反射板を光源に近ずけるほど小さくすることができること、反射板を光源に近づけその大きさを小さくするほど反射鏡から反射する光線をさえぎる範囲が小さくなり、反射板のマイナス作用は減少すること、以上の理は光源を反射鏡の焦点におかない第一実施例第一図(別紙図面第一図)においても同様であることを認めることができる。そして、以上に説明したところは、当業者ならば容易に理解できる事柄であるといつてよい。そうしてみれば、明細書に第一実施例の説明として点光源は反射板と反射鏡との間の反射効果最良の箇所へ配置すると説明しておけば、当業者は反射板、光源、反射鏡の三者の配置について最も有効な点を容易に発見できるものといつて差支えない。それ故、明細書の前記説明だけでは反射板、光源、反射鏡の三者の関係位置が不明瞭であるとした審決の認定は誤りであるというほかはない。

4、本件審決理由の要点4について

前記甲第八号証および甲第二号証の一によれば、本願考案の第一実施例は、光源を反射鏡の焦点に配置しないものであることが認められる。この場合、反射鏡から外部へ照射する光線は、発散するものであつて、平行に集光されるものではない(この点において第一実施例の図面が光線を平行に示しているのは正確でない。別紙図面第一図参照。)。してみると、本件審決が本願考案は要するに集光光学系の焦点に光源を置いたもので投射光は集光光に限られるものと認められるとしたのは、その認定に誤りがあるといわざるを得ない。審決はさらに発散光学系を利用することができないものと認定しているが、本願考案に凹レンズを使用することができない理由は発見することができない。

三 以上のとおり、本件審決にはその認定に誤りがあり、違法であるといわざるを得ないから、これを理由として本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、正当として認容する。

一 特許庁における手続の経緯

敷地利助は、昭和三七年六月一五日、特許庁に対し、名称を「照明装置」とする考案につき、実用新案登録出願をした(昭和三七年実用新案登録出願第三二、二九一号)が昭和三九年六月一七日拒絶査定を受けた。そこで、昭和三九年七月三一日、これを不服として審判を請求し、昭和三九年審判第三、八二一号事件として審理された。敷地利助は昭和四三年八月二〇日原告に対して実用新案の登録を受ける権利を譲渡し、その頃その旨の届出がされた。昭和四六年七月二六日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、昭和四六年九月二二日原告に送達された。

二 本願考案の登録請求の範囲

基板上に硝子小球殊に微小球を相接して並着した反射板と、照射可能にした反射鏡またはレンズ殊に凸レンズとの反射面を互いに対向して配設し、それ等反射面間に点光源、電球その他の光源を配置した事を特徴とする照明装置。(別紙図面第一図から第三図まで参照)

三 本件審決理由の要点

本願考案の登録請求の範囲は、前項掲記のとおりである。ところで、本件出願は、明細書および図面の記載が、次の点において不備であるため、実用新案法第五条第三項および第四項に規定する要件をみたしていないものと認める。

1、明細書中に、硝子球の反射光線の方向は、その入射光線の方向と同一であり、反射板(イ)によつてその入射光線を正確に入射方向に反射するという趣旨のことをのべている。

しかし、硝子の微小球を用いた再帰反射特性を有する反射板といえども、該微小球の入射光位置と、これを反射する反射光位置とは、物理的にみて、僅かではあるが両者にずれがあるものと認められるので、明細書中の前記記載は、物理的にみて誤りである。

2、明細書第二頁末行ないし第三頁第三行に記載の実施例についての説明に「反射板(イ)と反射鏡(3)との焦点に」と記載されているが、反射板の焦点とはどの部位を称するのか、また、反射板に焦点が存在する理由が、共に不明である。明細書は学術用語をもつて記載すべきもので、学術用語でない用語を注釈もなく使用したのでは意味が不明である。

3、明細書第二頁の第一実施例についての説明中、第一図(別紙図面第一図)図示のものにおいて、光線(5)は、反射板(イ)に遮蔽され、この部位の光線は、反射鏡の焦点に位置する光源とこれより該反射鏡に発する光線の立体角と方向を逆とする該光線の交叉する位置内に特定の大きさをもつて配置していなければ、損失が大きくなり所期の目的を達成できないものと認められる。ところが、単に、「反射効果最良の個所へ配置する」と漠然と述べられているだけで、これでは反射板、光源、反射鏡の三者相互の関係位置が明確に述べられていないので不明瞭である。すなわち、第一図に示す配置の場合には、反射板(イ)の影が生じ、それ以外の部分の光束は増加しないので、全体として利用光量の減少が生ずるだけである。したがつて、反射板(イ)の位置を選定して、それにさえぎられる光束以上の光束が余分に利用できるようにしなければ、反射板(イ)を設ける意味がなくなる。これは使用目的の如何にかかわらず成立つことであるから、反射板(イ)の設置位置は、使用目的の如何にかかわらず、特定されなければならないものと認められる。

4、本願実用新案登録請求の範囲の記載中、「反射鏡またはレンズ殊に凸レンズ」とあるが,殊に凸レンズとなつていることから、このような表現では凹レンズも含むものと解される。一方、図面の構造よりみて、本願の考案は反射光透過光を用いているが、要は集光光学系の焦点に光源を置いたもので、投射光は集光光に限られるものと認められる。したがつて、集光光を投射できない凹レンズの構成をも含む上記表現を用いることは不適当と認める。

四 本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、次の理由により、違法として取り消されるべきである。

(一) 本件審決理由の要点1について

本願考案の明細書における「硝子球の反射光線の方向は、その入射光線の方向と同一であり、反射板(イ)によつて入射光線を正確に入射方向に反射し」との記載は、反射板の硝子球殊にその微小球の再帰反射特性を説明したものであつて光線の各一本についての反射関係について述べたものではなく、反射板全体との関係において述べたものであり、かような観点からすれば、入射光線と反射光線とは同一点を通過するものということができる。したがつて、「……入射光線を正確に入射方向に反射し……」と表現したのは誤りではない。

(二) 本件審決理由の要点2について

本願考案の明細書中の「反射板(イ)と反射鏡(3)との焦点に」の記載は、反射鏡との関係における焦点を通過した光線が反射板によつて反射されて、再び反射鏡との関係における焦点を通過する点を、反射板との関係における焦点と表示したものである。したがつて、原告のいう焦点とは、反射鏡との関係では物理的意味で用いているが、反射板との関係では「物事の集中する所」の意味で普通用語として使用している。

(三) 本件審決理由の要点3について

本件審決は、本願考案の明細書中の「反射効果最良の個所へ配置する」との記載のみでは、反射板・光源・反射鏡間の相互の関係位置が不明確である旨述べているが、本願考案は、その使用目的に応じ、反射板・光源・反射鏡の三者の相互関係において、適宜取捨選択しうる性質を有する考案であるから、前記三者の相互位置を特定的に開示する必要は存在しない。審決は本件考案における反射板と反射鏡間における輝度の増加を全く看過している。反射板と反射鏡間の光束が増加すれば輝度が増加するのであつて、本件考案は輝度を利用することも包含している。なお、輝度は反射板と反射鏡との間において光線の方向と直角をなす方向から見るものであるが、審決は光線の投射された方向、すなわち反射板の外側から見る手段のみに拘泥する過誤を犯している。

(四) 本件審決理由の要点4について

本願実用新案登録請求の範囲の記載中、「反射鏡またはレンズ殊に凸レンズ」には、本願考案の目的を達成しえないような反射鏡又はレンズが含まれていないことは当然である。また、凹レンズおよび凸レンズも、レンズの厚さ。両面の曲率により、逆の作用をする場合があり、凹レンズも本願考案において利用し得るものである。本願考案のレンズは、焦点を利用する集光光学系のものに限られるわけではなく、光束を発散させる発散光学系のものも含まれる。

第1図

第2図

第3図

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